●世界中で愛される水仙の歴史
私たちには真冬に咲くニホンスイセン、春先のラッパズイセン等がおなじみだが、世界での水仙の人気ぶりはまた格物。古くはエジプト王朝でも栽培され、また文学に最初に登場したといわれる、歴史ある花だ。ギリシア最古の詩人ホメロスもその美しさを“燦然と輝く花”と称え、レオナルド・ダ・ビンチは名画「洞窟の聖母」に描き入れた。世界中の人びとが、冬枯れの中に際立って咲く姿に、生命の復活を感じたようだ。
ことに大英帝国時代のイギリスでは、気高く春を告げる花として貴族に愛され、世界から原種が集められ改良されてきた。現代もヨーロッパを中心に毎年新しい品種が誕生し、ガーデナー達を魅了している。
英国王立園芸協会ではこうした品種の認定を行っており、登録種は2万を超える。協会には19世紀の中央アジアのスイセンの押し花標本も大切に保存されており、ワールドワイドな人気の歴史がうかがえる。
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●水仙のルーツはヨーロッパ
水仙はヒガンバナ科に属する多年草。原産地は、夏に高温乾燥期を迎え、多くの球根植物を産する地中海地方(スペイン,ポルトガル,モロッコ等)。その原種は変種や亜種を含めて60種類以上といわれる。
その中で、シルクロードを経て中国に渡り、その後日本の海岸地帯に根付いて広がったのが、数ある品種の中でも最も早く花を咲かせるニホンスイセン(房咲きスイセン)。
水仙の伝来がいつ頃のことかはわかっていないが、越廼村には平安末期に海から流れついた娘の化身という伝説がある。実際、日本の歴史に登場するのは室町時代からだが、安土桃山時代以降は生け花や茶花として、江戸時代には着物や美術工芸のデザイン、俳句の題材等として、その風情が愛でられ、“和の文化”に根付いていった。 |
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ニホンスイセンの正式名称は、Narcissus tazetta var. chinennsis。
英名・学名のNarcissus(ナルシッサス)はギリシャ神話に由来し、tazetta(タゼッタ)は黄色い冠のような“小皿”、chinensis(チネンシス)は“中国の”という意味。
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●いろんな呼び方、水仙の名前
「水仙」は中国の古典から来た名前。“水の仙人”の意味で、水の豊かなところを好み、清らかで香しく生命力の強いさまからつけられたようだ。15世紀の日本の書物では、漢名水仙華に加えて和名「雪中花」と記されている。“雪の中でも春の訪れを告げる”とは実に優雅な名前だ。
唐の時代の中国では「捺祇(ないぎ)」と呼ばれていた。これは古いペルシャ語での呼び方「ナルギ」と通じ、ギリシア語の「ナルキッソス」につながるという説もある。名前を辿ってみても、シルクロードの遥かな旅がわかるようだ。他に金の盃に銀の台という意味の「金盞銀台(きんさんぎんだい)」、玉のように鮮やかに輝く「玉玲瓏(ぎょくれいろう)」「春玉」「長寿花」「雅客」「凌波子」等の名がある。
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●ナルキッソスの神話
川の神と妖精の子・美少年ナルキッソスは、泉に写る自分の美しさに恋焦がれ、やがて水辺を離れられなくなり命を落とす。その泉に見とれるように咲いた花は、冠の先が少年の唇のように赤い口紅スイセンだったという、有名なギリシャ神話の伝説。
この美少年の化身として英名(学名でもあるNarcissus)がついたといわれ,また一方では“昏睡・麻酔”を意味するギリシャ語の「ナルケ」 が名前の由来だ、とする説もある。
実は水仙の球根は有毒。古く中央アジアや中国では外用薬として麻酔や鎮痛等に用いた。
水仙の神話には、この他農業の神の娘が黄泉の国の帝王にさらわれる時落とした涙がラッパ水仙になった(シェークスピア「冬物語」)というものもある。
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イギリスではラッパズイセンの仲間に愛好者が多く「ダッフォディル(Daffodil)」と呼ばれ、
バラやアザミと並ぶ王室の花となっている。
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●水仙にまつわる言葉いろいろ
自分に見惚れてしまった“ナルキッソス”の伝説から、水仙の花言葉は「自己愛」として知られているが、これは口紅水仙のこと。
ニホンスイセンなどの房咲き水仙は「思い出、記念、自尊、尊重」。
「愛に応えて」(黄水仙)
「持って生まれた素質、注目」(ラッパ水仙)
「詩人の心、神秘」(口紅水仙/ポェティクス)
この他「優しい追憶」「田園の幸福」など、清らかなロマンを感じさせる花言葉が並び、ヨーロッパには「天使の涙」と呼ばれる種もある。
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●うたに登場する水仙
「其のにほひ桃より白し水仙花」
「初雪や水仙の葉のたわむまで」
「水仙や白き障子のとも映り」松尾芭蕉
「水仙の花の高さの日影かな」河合智月
「水仙の香やこぼれても雪の上」加賀千代女
「水仙や寒き都のここかしこ」与謝蕪村
「真中の小さき黄色の盃に甘き香もれる水仙の花」木下利玄
「水仙は白妙ごろもきよそへど恋人持たず香のみを炊く」与謝野晶子
「花過ぎて 伸びつくしたる 水仙の細葉みだれて雨そそぐ見ゆ」会津八一
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●香り高き水仙のシアワセ
部屋に一輪あるだけで、甘くツンとした香りで満たす水仙の馥郁たる香り。古くから高貴な香りとして貴族などに好まれ、キズイセン、口紅スイセン等は現代のブランド香水の調香にも使われている。揮発性が高いスイセンの香りは、精油として取り出すことが難しくとても高価な原料だ。
その香りに、実は秘めたる働きがある。ひとの創造力をつかさどる右脳を活性化させ、左右の脳の働きのバランスをとって“アタマをリラックスさせる”効果があるというのだ(東京医科歯科大学角田忠信教授らの研究)。
どのような香り成分が「利いている」のかは、まだ未解明だが、香りの効能を生活に生かす企業などでも研究が手がけられ、今後の活用が楽しみだ。アタマや心が疲れたときに、水仙の花を飾ってみよう。
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